【小文創作】「『Vow』 - Thought 」

Category創作
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ろれです。
さて、前回小文創作として公開した「Vow」ですが、性懲りもなく続きを書いておりまして、中編分を今回公開したいと思います。
相変わらず、思いつくままキーボードを叩いている事は変わらずですw
宜しくお願いします~。



 『Vow』 - Thought 

―――3年後。

「…貴女は今日からアークビショップです。奉仕と慈愛の心を忘れずに、その力で人々を導いてください。」

「…ありがとうございます。精一杯頑張ります。」

とある昼下がり。大聖堂から一人の聖職者が、溜息を洩らしながらプロンテラの街中に現れた。

「…これで私も、今日からアークビショップかぁ。何だか実感が湧かないけれど。」

3年前、幼馴染を追い単身プロンテラにやってきた小さな農村の娘。
都会の慌ただしさや雰囲気に心を押し潰されそうになりながら、聖職者としての人生を歩み始めていた。

彼女が村を追って出る前、プロンテラから彼女からの最後の便りが届いていた。
どうやら、ロードナイトに転職する事が出来たそうだ。
その知らせを受けてから私も村を出発したから、その後の動向は分からない。

「…今何処で、何をしているんだろう。」
私と違って色んな人と関わる事は得意そうだったし、プロンテラに来てからも都会の人達ときっと上手にやっているんだろう。
私はと言うと、色んな人に巡礼を助けてもらいながら何とかここまで…聖職者の最高位であるアークビショップに転職する事が出来た。大司教様からの話では、他の人より私はかなり時間が掛かった方らしい。

「…安心したら、お腹空いちゃった。お昼ご飯、食べよう。」

安堵から来る空腹に身を委ねた彼女の足取りは、酒場へと自然に向けられていた。

…酒場へ向かう途中の道、ふと、商人の出す露店に目が移る。
露天商は店の傍ら、鼻歌混じりに紙に筆を走らせている。傍には、欠伸をする白猫が蹲っている。
何気なく、並べられた品に目をやる。

「…あら。」

そこには、真っ白なリボンが陳列されていた。
結び目には小さなロザリオが飾られ、リボンにはフリルが満遍なくあしらわれていた。

「…ちょっとだけ、お洒落しようかな。」

「お洒落」って言う感覚は、村にいる間は中々湧かなかったけれど、都会に出てくると私と同じくらいの男性冒険者も沢山いる。
なので、年相応に異性の目が気になるようになった。プロンテラに上京してきてからは、一層その意識が強くなった気がする。

「…あ、すみません。これ、見てもいいですか?」

「ふんふん…おや?いらっしゃい!今の売り物の中じゃ結構上質なリボンですわよ、早速つけてみる?」

「えっ、あ…はい。」

そう言いながらリボンを手に取る。露天商は気を利かせてか、手鏡を構えてくれた。
急な露天商の対応に戸惑いながら、鏡を見ながらいそいそとリボンを付けてみる。

「…へぇ~。お嬢さん、良く似合ってますわね。お買いになる?」

「あ。えっと・・・はい。」

しどろもどろになりながらも代金を支払い、ほっとしていると露天商が話を続けてきた。

「そうねぇ…実はこんなのもあるんだけど、試着してみない?今日は売り物として出す予定はなかったんだけれど。」

「…えっと、どんなのでしょうか?」

そう言うと白猫を傍に連れた気さくな女性の露天商は、ニコニコとカートからリボンの髪飾りを取り出して見せた。
それはヴィンテージな雰囲気を宿した髪飾り。そして…小さな懐中時計が添えられていた。

「わぁ…。」

「ポイントはこのリボンに添えられた小さい懐中時計!派手さはないけど、こう言う控えめな感じ…私は凄くいいと思うんだ!ただ、皆もっと可愛い髪飾りや衣装に目移りしちゃって、仕入れたはいいけど在庫になっちゃったのよね~。時計も壊れちゃってて、動く事はないし。」

「…これ、いいですね。」

時計」。
村にいる間はそんなものはなかったけれど、都会では常識に近い「時を示す道具」。
彼女と村で過ごしていた間は、まるでこの壊れた懐中時計のように、止まった時の中で永遠を過ごしているような気分だった。
そんな日々がずっと続くと思いながら生きていた。
でも、今はそうじゃない。3年前のあの日から。
彼女はあの日から「止まっていた時を動かして」前に進んで行く事を決めた。
あの時から、私の止まっていた時も一緒に動き出した。

「…ん~お嬢さん、良かったらこれもセットでどうかしら?」

「えっ、でも私、今そんなに手持ちは…。」

「お題はそのリボンの分だけで構いませんわ!何となくだけど私の直感が、これは貴女に持っていてもらう方がいいと言っているの。私がそうしたいのですから、是非付けていってくださいませんこと?」

「え、で・・・でも・・・えぇ?」

こうして露天商に押し切られ、「懐中時計の髪飾り」と呼ばれるそれを受け取ってしまった。
でも不思議と、良さそうな髪飾りを無償で譲り受けた申し訳なさよりも、妙な安堵感を覚えていた。
まるで「昔から肌身離さずつけていた」ような…懐かしい感触に気持ちが包まれる。

「…うん!私の見立て通りですわね。お綺麗ですわよ、お嬢さん。」
「あ、ありがとうございます…。私も、今手に入れたものとは思えないような、懐かしい気分を感じます…。大切にしますね。」

綺麗」だなんて、言われ慣れない言葉を投げ掛けられ思わず少し顔が熱くなる。
商売が上手な人は、流石に口も上手い。

ふいと、見立てが理想通りでご満悦だった露天商が徐に口を開いた。

「そう言えばお嬢さん知ってます?最近プロンテラに現れた凄腕のルーンナイトのお噂。」

「ルーン…ナイトさん?」

騎士の上位職、ロードナイトを経てその座に就く事が出来るとされている最上位職の事だ。
私のよく知る、彼女の目指していたある種の終着点だ。

「なんでも、ミッドガルド大陸に居るモンスターの元締めを手当たり次第狩り倒してるんですって。で、その人の活動拠点がどうもこのプロンテラなんだそうですわよ。」

「…その人は、どういう人なんですか?」

「噂で聞く限り、相当腕っぷしが強いらしいわね。剣で戦うらしいけど、相当な腕前みたいよ。後特徴的なのが、「緑色の髪」…そう、丁度貴女のその髪の色みたいな感じ。今では大陸のちょっとしたボス退治に引っ張りだこだそうですわよ。えーっと、確か名前は… ――― だったかしら。」

「・・・!!!」

そう言って露天商が口にした名前を聞いて、私は湧き立つ震えを抑えられなかった。
地に着いた足が、何処へとも分からぬ方向へ向けて今にも走り出そうとしていた。

「…すみません、私行かなきゃ…!リボンと髪飾り、ありがとうございました!」

「毎度ありですわ、冒険者に戦乙女の幸あれ。」

新たな衣装に彩られた聖職者は、大きく息を吸って駆け出した。
何かに引き寄せられるように走り去って行く後ろ姿を、露店商は微笑みながら手を振り見送っていた。
そして、一呼吸置いた後呟いた。

「…今日は、やけに筆が捗りますわ。何か、どこかで素敵な事がありそうね。

そう言って露天商は、再び筆を取り描写を始めた。まるでこれからの物語を描くかのように。
再び出た白猫の大きな欠伸は、澄んだ青空に吸い込まれていった。

走った。
王都で人が集まるところ…この3年で学んだ事を踏まえれば勿論「酒場」。
もしかしたら、きっとそこに、「彼女」は居る。
噂になっているくらいだ。でも、何時もそこ居るとは限らない、それは分かっている。
でも、もしかしたら、もしかしたら。

『懐中時計の髪飾り』さん、今だけはこんな私の我儘を、少しだけ聞いてくれませんか。
どうか、どうか、少しの間、彼女に会えるその時まで、時間を止めておいてください。


私の抱いた「誓い」を果たす、その瞬間まで。




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1 Comments

ファ流シ音  

お疲れ様です

 旅立ちの日からアークビショップまで。かなり時間が飛びましたね。
 いかなる邂逅を果たす事になるのか、楽しみにさせて頂きます。

2018/05/23 (Wed) 01:42 | EDIT | REPLY |   

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